大負荷を制御する・・・ロボコン用回路設計の指針と機械設計の蜜月関係〜回路設計の進め方〜 |
ここでは主に電装系の設計の立場から、ロボットの設計について眺めてみたいと思います。
母校の後輩の役に立つようなコンテンツにするつもりです。
[工事中]
ロボット設計には、要求仕様,持ち前の技術(設計上必要となる計算力,物理現象を計算する力,アイデア,加工技術,加工機械の所有状況,加工機械の加工容量(大きさ・精度・処理量)) ・予算・時間・マンパワー・重量制限・サイズ制限・予算制限・(使うなら)無線周波数or出力[W]制限・部品等の入手能力とその納期が関係します。 当然、正解となる方法はありはしないのですからそこは思い切りが必要です。
ロボットの設計は、課題に対してアイデアを出す−>検討する−>アイデアを修正する−>作ってみて性能を確認する・・・という作業を繰り返します。 各種アクチュエータの制御には電装システムが必要ですが、この設計には当然制御対象となるロボットの仕様により影響を受けます。 ところで、ロボットの機械設計も電装系の仕様上の制限を受けます。
どちらの影響が大きくなるかは、設計の進め方により異なります。 設計の進め方には大きく2つ有ります。
一つ目は、全くのゼロから機械設計を進める方法です。 これは比較的自由な立場でアクチュエータの選定や制御機構を採用できるため、マシンの自由度が高くアイデアに富む設計にし易い特徴が有ります。 一方で、電装系には高い技術力が求められます。 柔軟に対応する制御システムのために、余裕のない電源やICの選択が必要となるかもしれませんし、回路の要求サイズが小さいかもしれません。 場合によっては電子回路の基板が特殊な形かもしれません。 消費電力や電源の関係上、今まで全く使ったことのないマイコンを使用する羽目になるかもしれません。 何より開発期間がかかりまくるという欠点が有ります。
二つ目は、ある程度電子基板の仕様を限定した上で、機械設計を進める方法です。 制御システムの拡張は基本的にはソフトウェアで対応する様にしてしまします。 当然、モータの流すことのできる電流や時には電源電圧に制限が付きますし、ロボットに回路用の空間を用意する必要が有ります。 即ち、使用できるモータの種類やトルクや回転数やその数に制限が付くという事です。 例えば、サーボモータならば最大出力2Wの物を2ch,最大50AのDCモータを3ch,最大1Aのステッピングモータを2chとし、それぞれ電源電圧は5V〜7.4Vとする…といった具合です。 これならば設計が容易だし、予備部品をたくさん用意することで事故にも対応しやすくなります。 さらに、回路の製造費用が安価になり、開発期間は最短です。
個人的には、比較的短い設計期間が求められるNHKロボコンでは基本的には2つ目の手法で進めた方が良いと思います。 従って、最初の電装系仕様決定が重要になりますが、この辺は経験的に決めるしかありません。 機械的・ソフト的・電気的な機能拡張を見込んだ上で設計を行う必要があります。
技術開発は続けて行かないと意味が有りませんので、オフシーズンに新しい技術にトライして、大会前は冒険しない方が良いと思います。 学校の威信(とお金とCM)をかけて戦うなら、戦略的に身の丈に合った回路設計を心掛けた方が良いのではないでしょうか?
ロボットを制御する回路はどうあるべきかと云う、経験に基づいたN箇条です。
項目 | その理由 |
マイコンの電源電圧は、3.3V系が良い |
電源にノイズが乗って供給電圧が低下しても、低い電圧で駆動しておけば影響はほとんどありません。 マイコンに合わせて、他の素子の定格を決めてしまったほうが使いやすいです。 産業界全体は低電圧の方向に移行しつつありますので、いつまでも5V系に依存していても仕方ありません。 |
電源の降圧には、LDO(Low Dlop Out)レギュレータを採用する |
いくつか理由が有ります。
お勧めは、一個150円〜250円のTOREX社製XC6201です。 負荷の急激な変動にもついてきますし、ノイズは小さいし言うこと有りません。 入手はこちらの業者さんから可能です。 ただし、負荷が大きいとレギュレータは発熱してしまいます。 そもそも発熱する様な設計が間違っているのですが、どうしても負荷が大きい場合は一度スイッチングレギュレータで電圧を落としてからLDOで目的の電圧まで落とすという方法も有ります。 |
可能なら、モータ駆動部とマイコンのある制御部は別電源とする | 駆動系の電源には非常に大きなスパークノイズが乗ります。これで制御部が誤作動することは普通です。 |
信号ラインはホトカプラで絶縁 | 制御側へノイズが乗るのを防止する他、大電流で駆動する回路のグランドと電源は制御側から見てバタバタ振動しているように見えます。 モータでなくても、定常的に大電流を流す(・・・例えばヒータ)制御回路をコントロールする際も必要となります。 場合によっては信号レベルがマイコンの許容レベルを超えてしまい、I/Oが破壊されたり入力レベルを誤認することも有ります。 |
ノイズを出さない、受けない回路パターンを心掛ける |
ユニバーサル基板上に組んでいたのでは、ノイズを拾うし放射します。
基板がモータの近くならば、 従って、出来る限りエッチングによって回路を組むこと・・・欲を言えば4層基板を採用すべきだと思います。 上下の層をGNDにして、ビアを打ちまくって、コンデンサを設置して電位のバタつきを抑えると効果的です。 浮いたパターンが残らないように注意して下さい。 |
モータ制御部のICに求める安全率は5を基準に、直接モータと直結する部分には安全率10を適用 |
スパークノイズで部品が燃えます。 例えば、12Vで稼働させるモータに定格12Vのコンデンサをサージ吸収用に取り付けても燃えるだけです。 機械設計上の定格と電気電子系の定格とはわけが違います。 機械構造に定格を超えた応力がかかると、そのほとんどが塑性変形を起こして破壊が電気製品に比べてゆっくり進みます。 もちろん、超硬チップ等堅い物は別ですが。 一方で電子回路に使われる素子の定格とは、数nsecの間でもその値を超える負荷が有った場合、破壊につながる可能性が有ります。 機械に例えるならば、回路は全部超硬合金なのです。 一般的には一瞬で壊れることがほとんどですが、中には数時間〜数日かけて影響が伝播していくことも有り、目に見えないだけに怖い物が有ります。 |
回路はコンパクトにする |
厳密には、回路パターンを密にする効果と回路の大きさを小さくする事自体による効果が有ります。 これも理由はいくつかあります。
小さくするために、表面実装部品を積極的に活用するべきです。 その際、テスト端子をアクセスし易い所へ設置するとスムーズにテストが行えます。 また、ピンセットでショートさせて短絡させないように十分部品の配置には気を配る必要が有ります。 |
回路設計の流れについて、モータを一個制御する回路を例に示したいと思います。
ここでは、制御対象はDCモータとします。
また、位置決め精度はあまり必要のない物とします。
機械的には、図に示すような機構を有するものを想定します。
[準備中]
さらに、マシン重量(モータの自重を含む)を20N(又は、約2kgf)とします。
大変そうですが、そんなに大変でもありません。 モータの自重が計算に必要となるので、どうするの?となるかもしれませんが、えいやっと決めてしまいます。 つまり、自重を倍の40Nとするのです。 言いかえれば、設計上の余裕が2(機械の言葉で何と云うか分かりませんが、設計上の余裕と云う事でここでは余裕率とします)と云う事になります(機械的耐久性を表す訳ではない)。 当然、モータの自重にこれで制限が付いたことになります。
必要なトルクT[Nm]と回転速度w[rpm]が決まったら、それを実現出来るモータの選定を行います。 この段階では、必要電圧の他にも重量や予算や最大サイズが影響します。 もし実現不可能な場合、機構そのものや余裕率を検討し直す必要が有ります。
ここでは、想定される最大トルクと定常トルク、回転数からマブチの540モータが適当であったと仮定します。
モータ自体が決まれば、最大負荷トルクから最大消費電流量が推定できます。 電気回路設計では、最大電流が重要です。 従って、モータの出力トルクが最大=軸が固着した時を想定します。 これは余りにも想定が厳しいんではないかと思う方もいるかもしれませんが、モータ始動時は停止状態からの起動ですのでこの電流が必要となります。 場合によっては、これ以上流れると見るべきです。
もし、入手性・定格設定の高過ぎる等の要因によって実現不可能であった場合は前に戻って検討する。
加えて、電源についても検討を加える。 バッテリは何を使うのか(重量・体積・形状・放電容量・許容定格・電圧電流制御の必要性)?、 瞬間的に何A必要なのか?、 むしろ瞬間的には出てくれない方が良いのか(回路保護のため)?
バッテリが決まったら、それから供給される電源回路も検討を行う。
エッチングで作るのか?外部に発注を出すのか?
問題が有れば、回路設計に戻る。
ところで、問題とは何を指すのだろうか…?
回路設計に問題が有れば、回路設計の段階へ戻り、パターン設計に問題が有ればパターン設計に戻る。