[工事中にて、文章がまだ滅茶苦茶]
2016/6/20 一部のリンク切れに対応して、記述を若干見直しました。
[参考文献について] 追記していくと番号が増えるので、順不同です。
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図1.1 ニホンジカ 撮影:2010/10/2 撮影場所:霧島連山 韓国岳 南登山口付近
野生動物の行動及びその社会性を理解することは近年特に重要になっています。 日本では日本オオカミと云う捕食動物が絶滅したこと,森林の経済的役割(又は重み)の変化によってニホンザルやニホンジカの無秩序な繁殖が問題とされています。 2010年現在、この問題に対する対処法としてハンターを雇っての数減らしが行われています。 この対処療法的取り組みはハンター人口に占める高齢者の割合が大きいために、今後の継続が危ぶまれています。 2010年に行われた森林シンポジウムでは、近い将来に積極的に生息数をコントロールするプロの狩猟集団の創設が提唱されました[1]。 単に生息数をコントロールする手段を創り出せば良いのではありません。 森林・野生動物はどの様な状態が好ましいのか、論理的な結論を導くためには生態系を理解する必要があります。
GPSテレメトリとは、元々船の航法に考え出されたGPSを使用して野生動物の位置を調べる方法です。 2010年現在、これまで広く行われてきた無線ビーコン方式に取って代わりつつあります。 GPSテレメトリシステムの最大の欠点は、その測位情報が動物に取り付ける追跡端末に蓄積されることです。 そのため様々な手段を使ってその測位情報の回収が行われます。 追跡個体自体の再捕獲が困難である場合、無線装置や脱落装置や重いバッテリが必要とされ、質量が大きいために適用可能な動物が比較的体重の大きな動物に限られるという課題が有ります。
熊本大学マルチメディア環境情報研究室では、2008年度より地上性の野生動物向けに軽量で長寿なGPSテレメトリシステムの開発を行ってきました。 5年取り組んだ成果としては、取り組み始めたころのGPSテレメトリ端末に比べて電池寿命を4倍程度にした程度です。 2012-11時点では市場にあるデバイスと比べると2倍程でしょうか。 しかし、私個人としては、ハードを開発しても学位論文につながらないためここ2年間ほぼハードを触っていません。 個人的にはハードが好きなので少し禁断症状が…。 でもほぼ全てのコードを1人で書いてきて、正直きつかったなぁ。 まそれは置いておいて、せっかくですので本ページでは5年間の成果を簡単にまとめておきたいと思います。
既存の野生動物調査方法の特徴を表1.1に示します。 重量の面で最も軽くできる手法はラジオテレメトリです。 軽さを生かして鳥の調査が行われています[4]。 その分バッテリも持ちませんが。。。 RFタグも軽いのですが、アンテナ面積が意外と大きいのでちょっとだけ重いです。
表1.1 各種追跡手法の特徴
No. | 手法名 | 測位手段 | 測位のカバー領域 | データ回収のカバー領域 | 重量 | 観測期間 | 人力の必要量 | 必要費用 |
1 | ラジオテレメトリ | 対象に取り付けられる端末は単純な電波の発信機を内蔵する。調査者は電波の到来方向を指向性アンテナを用いて三角測量を行う。 | 最大20km程度 | 最大20km程度 | 端末は軽い | 小さい割に長い期間調査ができる。2年程度。それ以上だとモールド材の樹脂が劣化して壊れる。 | 大変 | 人件費がかかる |
2 | アルゴス | 通信機能を持った端末を取り付ける。多数あるアルゴス衛星の内どれかが電波を受信し、測量を行う。測位結果はサービス会社より提供される。 | 全球 | 全球 | 軽い | 長持ち | 取り付けた後は省力的 | 通信費がかかる。安くはない。 |
3 | RFタグ (レンタルビデオ屋さんの警報装置のようなもの) |
タグとの間で通信を行うタグリーダーを無数に設置し、その通信を行った基地局の位置が追跡対象の位置とみなす。 | タグリーダー周囲数メートル | タグリーダー周囲数メートル | 非常に軽い(電源が不要なため) | タグリーダーの電源次第 | リーダーの設置および測量が非常に大変。測量用のトータルステーションがなければ実用は不可能と思う。 | タグは100円もしないというのに、リーダーは1台数万円が普通。自作ならこれに限らないが技適の取得で100万円くらい飛ぶはず。 |
4 | GPSテレメトリ | GPSを用いる | 全球 | 通常、直接回収が行われるので人が行ける範囲がカバー領域となる。そのほか、大型アンテナを利用した無線でのデータ回収も行われるが、距離はせいぜい300 mである。ちなみに、直接回収には熟練を要し、確実に回収できるとも限らない。 | GPS受信機がバッテリを食うので重い | 必要放電電流が大きいためにリチウムポリマ電池が使われる。この電池は自己放電が多く、大抵場合1年で切れる。運用期間は電池容量に左右されるがシカ用で半年、クマが1~2年の様だ。猿だと3か月程度~。GPSの測位回数や感度に左右されやすい。u-bloxのアナログ記録式だと軽く3~4年は持つはずだが、データストレージに数GByteが必要であり、確実に直接回収できる動物(家畜など)でなければならない。 | データ回収にかかる人件費はラジオテレメトリ以下、アルゴス以上。アルゴス衛星を使用したデータ回収という手段もあるがクジラ用かクマ用でしか販売されていない。 | 端末は最低30万円~となり、いっぱしの物で40万円~となる。端末はロストする可能性もあり、高価といえる。 |
ところで、これらの製品は電波を使いますので日本の技適(電波法の技術検定)を取得しているかどうか確認が必要です。 販売されているモジュールが適法かどうかは、適法であることをアピールポイントにしているかどうかで見分けが付きます。 GPSテレメトリ端末では、2012-11時点で国内トップシェアを誇るFOLLOWIT社のデバイスは電波法に違反しています。 なお電波法違反と言っても、通常は山奥で使われるので厳密にはグレーです。 ただし、2010年に消防無線に混信があったケースでドッグマーカーの摘発があったことには留意した方が良いでしょう。
[2012-11追記] 電波ではないのですが、最近はGPSテレメトリ端末内にある微量な火薬が問題になっているようです。 物自体は発破をかけても殆ど音もしないほどだそうですが・・・。
2012-11現在、GPSテレメトリデバイス開発を行っているのは、(私が知っている限りですが) NTTドコモ(GPS携帯ベース:携帯電話ネットワークが強み)・ CORE(極小GPSアルゴス)・ 数理設計研究所(長距離通信CDMAモジュール搭載型リアルタイム通報GPSテレメトリ端末:主なターゲットは鳥)・ アーズ(950 MHz帯無線ネットワーク型:私が熊大で取り組んだことに近い)・ 青電社(自社開発のビーコンとGPSロガーの組み合わせ) の5社です(敬称略)。 個人的に気になるのは、アーズ社さんでしょうか。 無線ネットワークでのデータ回収を目玉にされていて、やっていることが近い・・・。 青電社さんのデバイスはFOLLOWIT社の筐体をベースに、通信デバイスを自社製品に置き換えられて開発されているようです。 これは2012-12までのリリースを目指していらっしゃるとのことで、実現すれば中大型哺乳類用の通常運用型では日本の技適適合を初めて取れた端末になります。
[2013/5/10 追記] メモ:国内製電波法適合GPS首輪 GLT-01
GPSテレメトリシステムを構築するにあたって、その開発対象を明確にする必要が有ります。 と云うもの、調査対象とする動物によって行動の仕方が大きく異なり、すなわちそれがシステムの根幹をなすGPS受信機にとってかなり異なる測位環境となるためです。
鳥を対象としたGPSテレメトリは割と早くから導入が進んでいます。 導入が早く進んだ理由は2つあり、一つは再捕獲が容易であること(アホウドリや営巣中のタカ類)によって、測位情報の回収が簡単であることが挙げられます。 もう一つは、鳥が上空障害物の無い空を飛ぶことによって測位がやり易い事で低感度・低消費電力の受信機が使えることです。 そのため鳥類用の物は比較的小さく作ることが出来ます。 やろうと思えば容易に50g以下になるでしょう。 電池をCR2クラスとすれば、観測インターバル3時間で稼働期間は180日程度と推定されます。 最近では小さな太陽電池を付けて、稼働期間を伸ばす様です。
1万km以上も旅をするウミガメ等の追跡に使われています。 重量制限もほとんどないので回路設計は楽かもしれません。 クジラの場合、十分な防水設計の方が面倒でしょう。 これらの動物は渡りの範囲が長大であるため測位精度が劣るアルゴスシステムでも良いのではと個人的には思っています。 GPS受信機は海に埋没すると役に立ちませんので、電力を使う割に成果は少ないのではないでしょうか? 計測器は、殆どの場合GPSの測位情報をアルゴス用の送信機で送る様です。 そのためGPSで測位が出来なくても位置は把握できるという訳です。
いくつもある海外のGPSテレメトリメーカの主戦力が投入されているのがこのクラスです。 陸上動物の場合、厄介なのが樹木及び急峻な地形によるGPS測距信号の遮蔽・減衰です。 十分な信号強度の測距信号が4衛星から取れなければ測位が出来ません。 追跡対象がサバンナや高山系の様に樹木の少ない環境に住んでいるのか、森の深い所か、谷間or尾根or断崖なのかによってGPSにとっての過酷さが変わります。 また、その行動面積や移動の仕方によって測位情報の回収や測位の仕組みそのものへ影響します。
細かい事は他のサイトに譲りますが、GPSによる測位には衛星位置が分かること及びGPS衛星(NAVSTAR: Navigation Signal Timing and Ranging,ナブスターと読む☆)の放送する航法メッセージを解読する必要があります。 また、これがシステム設計上の肝となります。 なぜならば、GPS受信機は通常航法メッセージに含まれるエフェメリスを保持しなくては測位演算が行えないからです。 この軌道情報をどう扱うのかによって測位の実現方法は多岐に渡ります。
ここで、GPSの測位原理について軽く触れておきます。 単独測位・スタンドアローン測位が可能な受信機の測位の流れを図3.1に示します。 GPS衛星から発射された電波(測距信号)は宇宙空間と大気を伝搬して最終的にアンテナへ到達します。 アンテナで受信した信号はダウンコンバートされ、A/D変換器によりサンプリングされます。 サンプリングされたデータはノイズとCDMAによって拡散された信号が重畳しており、そのままではノイズと変わりません。 そこで相関器を使ってC/Aレプリカ信号との相関を取ることで信号を取り出します。 その信号には衛星の軌道情報であるエフェメリスが含まれていますのでこれを用いて衛星の位置座標を計算します。 起動直後であれば認識している時刻が不正確ですので衛星位置は大よその予想値となります。 あとは推定される衛星位置と疑似距離から受信機の位置を求める計算を繰り返すと受信機位置と時刻と速度が求まります。
ちなみに、良くある勘違いですがGPS受信機は衛星に対して電波を発射したりは致しません。
信号の受信はアンテナを使ってGPS受信機が行う必要が有りますが、その後の工程は他のコンピュータにやらせることが出来ます。 例えば、携帯電話を対象としたGPS測位サービスでは通信ネットワークを利用してサーバーによる計算支援が行われています。 子供の位置を確認するサービスに使用されているシステムも同様の仕組みを利用しています。 なお、携帯電話における測位原理は図3.2に示すようなスタンドアローンなGPS受信機とは異なります。 こちらのページに携帯電話の測位実現方法についてまとめていますのでご一読下さい。
2010年のGNSSシンポジウムにおいて、NTTドコモさんによる携帯電話を利用した熊の行動調査について報告がなされました。 それによると携帯電話の圏内ならば非常に有用との事です。 このシステムは、1日の測位を平均8回(だったと思う)に抑えることで半年以上の運用期間を誇るシステムです。 大容量バッテリを並列・昇圧して供給し、ソフトウェアを改造することで既存の携帯電話を観測機器に改造されています。 無線装置は電波法による厳格な管理がなされているため、ハードをいじる事は中々やれないのだそうです。 さらに突っ込むと、おそらく非常に多くのユーザーを抱えるサーバシステムを変更してまで、テレメトリ用のアシストシステムを構築する事が困難だったのだろうと思われました。 今後は、携帯電話式のテレメトリが人里に近い空間で生活する動物に対して活躍の機会を増やしそうです。
ところで、最近のカメラには電源を入れた直後に測位が行える機種が増えてきました。 これはスタンドアローンで測位可能なGPS受信機にアシスト情報をダウンロードして行う、AGPS(アシストGPS)と呼ばれる技術が使われています。 この技術は、GPS受信機にアルマナックよりも精度の良い軌道情報を与えることで、瞬時にドップラシフト及び遅延時間の推定量を与えることで積分時間を長くし、結果として受信感度を高め、信号捕捉と測位演算を瞬時に終了させる素晴らしい技術です。 2011/2現在、一部の機種ではアシスト情報の有効期限が1か月と割と長い製品が発売されています。 短期間の調査で済むのであればAGPS受信機を使用することで超軽量テレメトリ首輪が実現可能です。 リチウムポリマバッテリは自己放電が大きいために長くは持ちませんし、これにAGPSを組み合わせるというアイデアはシステムとして相性が良いと思います。 捕獲から2月の間程度行動がおかしくなると云われるサル等では観測データとしてのありがたみは薄いのですが、用途によっては非常に強力と考えられます。
[2013/5/6 memo] 2013年春より、古野電気さんからアシスト情報を自己生成するスタンドアロンGPS受信機モジュールが発売されています。 消費電流が一般的なGPS受信機の最新モデルに比べて倍くらいあるのですが、アシスト機能の性能次第では劇的に消費電流を減らせる可能性があります。
タイムスタンプ付きのIF信号を保存するタイプのGPS受信機を動物に適用した例が2005年に発表されています。 このタイプのメリットは、運用年数の長期化と軽量化及びハードウェアの簡素化です。 測位を後処理とするためエフェメリスがリアルタイムでは必要なく、GPS受信機の起動時間は4~200 ms程度で済むため電力の消費量が少ないのです。 デメリットは、大量のデータストレージ(数GByte)が必要であるので回収手段にタグの直接回収しかないことです。 IFデータはほぼノイズなので圧縮できません。 また、後処理で位置座標を計算するため専用のソフトウェアが必要です。 解析ソフトは自分で作るのでなければ市販のものを使うことになりますが、2011/11時点では需要が少ないため、ソースコード付きでン百万円,バイナリでン十万円とのことです。
IF信号を記録する方法はGPSだけでなく他の測位衛星で測位できるようにソフトウェアへ機能を追加できる点も強みです。 GPSだけでは測位できなかったとしても、他の衛星を追加すれば測位に成功する可能性が増すためです。 測位に使用できる衛星は、日本のQZS、中国のBeiDou(2013/5時点では仕様がはっきり公開されていない)、欧州のGalileo、ロシアのGLONASS、インドのGAGANがあります。 ただし、全ての信号を同時に受信するには多周波アンテナやサンプリング周波数の増大が必要で、技術的課題はあります。
長期間の観測が必要でかつタグを直接回収できるターゲットであれば、これ以外の選択肢は無い気がします。 この測位方法はタイムスタンプが数分ズレてもOKとのことなので、極端な気候でなければ大抵のRTCで1年は持つはずです。
2011年のGPS/GNSSシンポジウムでの発表された内容によれば、測位精度は一昔前のGPS級とのこと。 サンプリング時間に依存するのだろうけど。 この時の発表では、渡りをする動物にとっては大した誤差ではないがニホンジカ等にとっては無視できなさそうな数字だったと思う(うろ覚え)。。
[2013/5/6 memo] GNSS関係の人材育成のための「GNSS TUTOR」というサイトが立ち上がりました。 このサイト上で2013年度中にソフトウェアGPS受信機に関する資料とソースコードが公開される予定です。 ちなみに、測位航法学会の春の全国大会でソフトウェアGPS受信機の講習を受けた方にはソースコードが先行配布されました。 また、ここ以外にも東京海洋大学の鈴木さんが開発されたソフトウェアのソースコードがhttp://www.taroz.net/index.htmlより入手できます。 ダウンロードリンクは、2013/4/23付のブログにあります。 開発言語は両者ともC言語(C89)で、 開発環境はVisual Studio C++ 2010/2012です。 個人的にはコードをC++に書き換えた方が将来性があると思います。
[開発コンセプトについて記述予定 以下メモ]
無線センサネットワークが流行
無線でのデータ回収は自動化可能
特にサルならなおのこと
省力化でデバイスコストをペイする可能性は十分にある
電池寿命を延ばすには、大きく5つの方法があります。 1つ目の方法は、まず第一にスリープ中の消費電流量を減らすことです。 GPS受信機はRAMの維持に数~10 μAを消費します。 これは2年間駆動させれば175 mAhにもなり、ばかにならないのですが、減らしようがありません。 そこで、GPS受信機以外の回路のスリープ電流を如何に低く抑えるかがカギとなります。 熊大で作った回路は、GPS受信機以外のスリープ電流を4 μA以下にできました。 マイコンは1 Hzで割り込み起動&時刻更新を行いますが数μsで再びスリープに入るので気になりません。 2つ目の方法は、放電容量が大きく自己放電の少ないバッテリを使うことです。 現時点では、瞬間放電能力に優れたLi-Feバッテリ以外の選択肢はありません。 3つ目の方法は、次の測位予定時刻にも可視となる衛星が多い場合にGPSの測位の継続をサブフレーム3(SF3)まで続けることです。 これだけでTTFFが大きく短縮されます。 4つ目の方法は、SF3が放送されている途中…厳密にはSF4の3秒ほど前にGPS受信機の電源を入れることです。 特に森林環境下ではばかにならないTTFF短縮効果が得られます。 5つ目の方法は、動物が移動を止めた瞬間や動いている間だけ測位を行うことです。 何も寝ている動物の位置を何度も確認する必要はありません。 ちなみに、測位直後に数秒して回路をスリープ状態へ遷移させる場合はGPS受信機の電源ON-OFFのインターバルを2時間以上にしても意味がありません。 インターバルを伸ばした分だけウォームスタートが増えてしまい、電池を消耗するだけです。
オープンソースハードウェア(OSHW)ライセンスの元、本研究で開発した回路とそのパターン図を公開します。 ソフトウェアに関しては修正BSDライセンスとし、商用への応用は自由とします。 ただし、同封しているライセンス文書をよく読んでください。 OSHWに関しては、下記のリンクをご覧になってください。 派生開発物をOSHWライセンスにすること以外はほぼ自由となっているライセンスです。
リリース日 | 回路データ・プログラムパッケージ | 更新内容 | ||||||||||||||||||||||
2012/11/8 |
GpsTelemetryBoard2ForHP.zip F/W ver 6.3.0のソースコードとhex (Atmel Studio 6.0にてビルド済み) |
本研究で作った2つ目の回路です(1つ目は出来が良くなかったのでひみつです)。
回路図の閲覧や設計にはEAGLEが必要です。
回路の開発は2008-09に行ったものですが、回路データフォーマットは最新のEAGLE ver6.3.0に差し替えています。
なお、EAGLEのファイルはプリント基板の製造会社によってはこのままファイルを送って即製造可能です。
なお、本回路はテスト用に余計な配線が有ったり、バッテリの配置をしています。 GPS受信機も様々なタイプをテストしようとフラットケーブルで接続するようにしたのですが、あまり性能上よくありませんでした。 電磁波を漏らさないように銅テープをケーブルに巻いて下さい。 また、ケーブル長は短い方が良いです。 ちなみに、デバイスの原価(人件費と施設への投資分を含まない)は、1個当たり筐体を含めて4/5万円です。 これを販売するとなると、20~30万円程度が妥当かなぁ。 スペック
[2013/5/10 追記] XBeeのRTSに接続された線は、CTSへつなぎ換えて下さい。 |
基板に部品を実装して並べたところ | 完成するとこんな感じ GPS受信機の基板の差し替えが可能です。 |
DC-DCコンバータ版 白破線で基板をカットできます。 最初はATmega644Pを実装していました。 |
LDO版 左の写真と同様に、ATmega1284Pへ換装する前です。 |
実験中の様子 バッテリ2系統の電源供給を加えているので、バッテリ交換をやりつつ実験を継続可能です。 他にも外部電源も供給可能なので、合計3.5系統の電源供給方法があります。0.5は太陽電池の分です。 |
GPSを利用した生態調査を行う者にとってはその測位精度に強い関心が有ります。 実際に霊長類学会等ではその手の報告が数多くなされています。 しかしながら専門が測位とは全く異なる方々が実験を行っていらっしゃるためにその報告には疑問が残るのが現状です。 以下では先ず測位誤差についての一般論を述べます。 次にGPSテレメトリでの測位誤差について解説します。
測位誤差は生態調査用のスタンドアローンな単独測位システムと測量用受信機とでは桁が違います。 測量用のGPS受信機は、外部から補正情報と30分から数時間必要ですがmm単位で測位が可能です。 この場合、時間と精度は概ねトレードオフの関係に有ります。 ところが、単独測位では24時間以上測位を続けて平均を取るなどせねば精度をサブメートル級に落とすことはできません。 もし受信アンテナの近くに測距信号を反射する建物等の構造物が有るとマルチパスが発生してしまい、精度をサブメートルに落とすことは絶望的です。 一般的には、オープンスカイ状態における水平精度が95%値で10m程度と言われています。
ここに、単独測位のGPS受信機の一つであるHOLUX m-241(図S.1.1)で記録した連続移動観測データ例を示します。 この記録はGPS受信機を首に下げながら自転車に乗って記録したものです。 図S.1.2にフリーのカシミール3Dを使って地図に投影したログを示します。 GPSログデータはここからダウンロードしてください。 地図に最大2.5mの水平誤差があることを頭に入れた上でログデータを見ても、最大30mの誤差が明らかです。
ところで、単独測位用の受信機の中には測位精度が1mを切ると謳われるものが有ります。 この様な精度はマルチパス抑制技術s1-1だけではなく、「オープンスカイ状態」と「SBAS(えすばす)と呼ばれる衛星からGPS補正情報を受信すると」という条件が付きます。 GPS受信機がこの信号を受信して測位を行うと、測位ステータスがDGPSモードを表す“2”へ変化するので分かりますs1-2。 日本付近では太平洋上の静止軌道に浮かんでいるMTSAT(えむてぃさっと)から放送されている測距信号が利用可能です。 この補正信号を電源投入直後に捕捉&利用できれば都合が良いのですが、実際には一部の受信機を除いて非常に時間がかかります。 残念ながら補正情報をGPSテレメトリで利用することはできません。 さらに言うと、SBASと同じフォーマットで放送する準天頂衛星のL1SAIF信号も利用できません…。
疑似距離(GPS衛星までの計測距離)の精度を高めるにはMTSATやQZS(準天頂衛星)の放送する電離層補正情報を利用するしかありません。 ただし、これらの衛星は副次的にNAVSTAR(GPS衛星)と同様に測距に利用することができます。 測距に利用できれば可視衛星が増えますので利用できる衛星が増えて測位の可能性がかなり高くなります。 QZS用のアシスト情報生成アルゴリズムも今後は議論の対象となるでしょう。
先ほど述べた様に、単独測位での水平精度は概ね10mとなりますs1-3。 ただし、これは連続で測位し続けたときであり、GPSテレメトリの様に測位完了と共に素早く電源を切る場合では、誤差は倍以上と見て間違いありません。 垂直精度に至っては更に悪く、統計的には√2倍と言われていますのでGPSテレメトリでは40m程度であれば御の字となります。
山林で観測された高度を動画にしてみました。 GPSテレメトリよりもはるかに条件の良い連続測位(普通の使い方)の測位結果であることに留意して下さい。 30m程度の測位誤差があることが分かります。 GPSテレメでは・・・推して知るべしですね。
GPSテレメトリシステムにおける測位精度をどのように測定すれば良いのでしょうか? GPSによる測位アルゴリズムには漸近処理が含まれており、初期値が観測座標に近ければそれだけ初回測位精度は高まります。 従って定点観測における測位精度をそのまま鵜呑みにはできません。 GPSテレメトリにおける測位精度を評価するためには、実際に電源ON-OFFを繰り返しながら観測する必要が有ります。 さらに、移動する物体を想定して観測場所を移動するのが現実に沿っています。 移動と言っても位置を変えれば良いだけです。 マンパワーが使えるならば観測後に数百メートル位置をずらすことで対処できそうですが、非現実的です。 しかも日本の山林での使用を考慮すると高度方向もずらすことが必要ですが、これまた非現実的ですs1-4。
GPSテレメトリの測位精度評価では、オープンスカイにおける水平精度を基本性能として取り扱うことしかできません。 もし水平精度評価を行う場合、当然ながら定点座標は精密測量する必要が有ります。 ただし、低価格GPS受信機モジュールの測位精度は各メーカーとも大した違いはありませんs1-5。 大変な苦労をして得られる結果はつまらないものとなるでしょう。 もしかすると速度マスクによる座標更新停止が行われ、測位精度が見かけは良いかもしれませんがそれは誤魔化しに過ぎません。 測位演算エンジン・電離層モデル・実測した疑似距離データからシミュレーションモデルを構築するという手法の方が現実的です。
GPS受信機の電源を入れた時にどの様な振る舞い方をするかはGPS受信機メーカのさじ加減ひとつで変わります。 図S.1.3にヘミスフェア社製A100,San Jose Technology社製TK-1315LA,ポジション社製GPS-72Dの3つのGPS受信機を並べて観測した時の様子を示します。 観測日時は2011/3/9です。 この時得られた電源投入直後の観測データを図S.1.4に示します。 この日の前日にも同じ実験を行っていたので各受信機ともアルマナックは最新の情報を保持しています。 この結果から、TK-1315LA受信機は前日の記録データをそのまま出力したこと,GPS-72D受信機は演算の収束に50秒近くを要していること, A100受信機は収束してから結果を出力したことが分かります。
GPSテレメトリではGPS受信機の電源を3Dfixと同時にOFFにしますが、高精度を求めるならばその後の経過時間が重要となります。 空間分解能は追跡対象の行動域面積に反比例すればよいのですが、観測密度やGPSの観測精度を考えると、行動域面積は消費電流量に対して大きなウェイトを占めないかもしれません。
これまでの研究では、測位精度の高精度化手法としてDOP値(どっぷち)に基づくものが発表されています。 DOP値は測位に使用している衛星の幾何配置に起因する精度劣化指標です。 特に水平精度に関してはHDOPが規定されています。 このDOP値が大きいと測位精度が確率的に劣化します。 提案されている手法は、HDOPが閾値以上であればその測定値を採用しないという方法です。 精説GPSには、DOPについて「DOP値が大きい場合には大きな誤差が含まれる様になるが同じ割合で精度の良い観測も行われる」という旨の記述が有ります[2]。 解説に使用されていたのはSAs1-6解除前のデータですが、現在も同様な傾向でしょう。 つまりDOP値大=低水平測位精度では無いことに注意する必要が有ります。 ただし、一般的に非常に大きなDOP値を示す際に信頼を置けないことは確かです。
GPSテレメトリによる観測データは膨大であり、その利用方法もラジオテレメトリ時代とは異なるはずです。 得られた観測データの利用方法も今までとは異なるのではないでしょうか? GPSテレメトリによって得られた測位座標は確率的にしか測位精度を表すことが出来ません。 観測データを利用する上で、信頼性が低いからと言ってむやみに閾値を設けて該当する観測データを削除して良いのかという問題が有ります。 私はGPSテレメトリにおける観測データは明らかにおかしいと分かるもの以外はそのまま統計処理ソフトに掛けるべきだと思います。 明らかにおかしいデータとは、例えば“地球の裏に行った”,“シカが高度200mを飛んでいる”,“移動速度が時速100kmを超えた”,“地下200mに突入した”等です。 貴重な観測データを根拠の薄い閾値(DOP値など)で削除するよりも、DOP値を信頼性情報として入力する方がよほど科学的です。 ただし、今度はどの程度信頼して良いのかを示すために、選んだ指標を正規化する作業が問題となります。 おまけに既存の生態調査用のソフトウェアの改修が必要となるかもしれません。
これまで、観測データに含まれる高度情報と国土地理院が整備している地勢データを用いて、あまりに大きな差が存在した場合に解析から除くというアイデアも発表されています[3]。 このアイデアは非常に良いと思うのですが、その閾値は小さ過ぎると考えられますs1-7。 GPSテレメトリの特殊な運用方法を考えると垂直方向では100mの誤差が普通であると思います。
ところで、地勢データは衛星によるレーダ観測や航空機による写真測量により行われます。 従って少なからず地形や樹木の影響を受けます。 主な山地の頂上についてはかなり正確な測量が行われていますがその他の谷や斜面ではそこまで精度が有るとは思えません(主観的イメージ)。 そもそも、市場価値の少ない山地の測量を正確に全国規模で整備するとも思えません。 従って、最大数mの高さ方向の誤差はあるのではないでしょうか? 小さな沢は地形図上から読み取るのは不可能ですし、そんな気がします。 あくまで気なのですが、2万5千分の1の地形図を手に、テキトーに記載された登山道を歩いているとそう思います。 まあ、そんなことを言っても数mの誤差ならGPSテレメトリにとっては無視できるほど小さな誤差でしょうか...。
s1-1高級(20万円以上)な受信機には測距信号のサンプリング周波数を通常よりも上げることでマルチパスの影響を除去する技術が盛り込まれています。
s1-2測位ステータスはNMEAフォーマット中のGPGGAセンテンスに有ります。
s1-3この測位精度は緯度が高くなるにつれて衛星軌道上の都合により劣化します。
s1-4GPSシミュレータによって、12ch分の衛星信号をエミュレートすれば受信機を実験室から動かさずに済みます。
が、市販の受信機では内部時計だけは進められないので時間だけはかかります。
ソフトウェアGPS受信機が必要です。
800万以上の科研費が当たったら実験したいなあ。
s1-5測位座標の動特性は速度マスク設定や移動ベクトル制限による違いのために個性的であり、非常に面白いです。
s1-6SAとは、2000年に米国の大統領令により解除された民生信号における意図的な誤差挿入処置です。
s1-7資料では確認できなかったのですが、31mと発表されたそうです。
民生用の航法メッセージはNAVSTARからL1/CAコードで放送されています。 この航法メッセージには、測位演算に必要なエフェメリスとアルマナックという2つの軌道情報が含まれています。 このエフェメリスには測距信号を放送した衛星自身の軌道情報が含まれており、アルマナックにはエフェメリスよりも荒い軌道情報を分割したものが含まれています。 エフェメリスは衛星の位置を正確に求めるために使用され、アルマナックは電源投入直後に衛星を探すために使用されます。 ところで、軌道情報はページ(又はフレーム)と呼ばれる単位で放送されており、1ページはさらに5つのサブフレームに分けて放送されます。 エフェメリスはサブフレーム1から3に格納されており、アルマナックの25分の1はサブフレーム4と5に格納されています。 GPS受信機が1ページを受信するためには30秒が必要です。 また、アルマナックを完全に受信するためには25ページ必要であり、完全取得のためには最低12分30秒が必要とされます。
軌道情報は計算精度を保つためにその使用期限が定められており、通常エフェメリスは放送から4時間,アルマナックは6日とされています。 久方ぶりにGPS受信機の電源を入れると測位を行うのに時間がかかるのはこのためです。 大部分の受信機はアルマナックを完全に受信しないと測位演算を行いません。 ただし、u-bloxなど一部の受信機はエフェメリスさえ取得できれば計算してしまいます。
私は趣味で山登りをするのですが、この生態調査のテレメトリの世界を知るようになって、なぜ山屋には発信器が普及しないのだろうかと思うようになりました。 全ての登山者グループが発信器を携行する様になれば大抵の遭難では生存率が上がると考えられます。 生態調査の世界では、最近になって総務省により一部の無線帯域を調査用に割り当てられました。 デジタル通信方式ならばOKとのことで、発信器は既に販売されています。 電池も1年は持つそうです。 電波の到達距離は雪崩対策用の物とは比べ物になりません。
ところで、現在販売されている物はデフォルト状態ではデジタル変調された信号を発信するのみです。 これに加えて、さらにGPS受信機を内蔵しておき、救助側からの無線コマンド要請に基づきトランスポンダ式に測位座標を返すならば非常に実用的でしょう。 後は、自治体としてどれだけ導入を推し進めるかに山屋の間にビーコンが普及するかがかかっています。 例えば、ビーコンを500円位でレンタルする様にして、その分山岳保険料を500円安くするなどすれば普及が早く進みそうです。 先ずは日本アルプスでの導入を行って欲しいです。
もし実現すれば何年も屍を晒さずに済むかもしれません。
重量的にも200gならば許容できると思います。
ちなみに、調査用の発振機にGPSを組み込んで山屋用に量産すれば、コスト的には恐らく1発信器当たり6万円以下になると思います。
複雑な測位スケジューリングやPCとの接続もいらないのですからソフトウェアの開発費用もゴミみたいなものです。
元々デジタル変調するために使用しているマイコンが有るのですから(専用のICでなければ)、それにNMEAセンテンスを処理させれば即、GPS測位機能付き発信器の出来上がりです。
ただし、山屋の間にも普及するとなると識別IDが不足するかもしれません。