GPS受信機について

OEM(組み込み)ボードからハンディ受信機まで

森下功啓製作所 ONLINE

ここでは、今まで使用してきたGPS受信機についてその性能を比較しています。 もし他にも比較してほしい項目があったり、ここに掲載した結果とは異なる結果が得られた場合はぜひご連絡下さい。

掲載している受信機へのリンク
GPS 15L/H
EB85
GPS 72
A100

[2013/1/5] 図1.2を追加しました。一部のリンク切れを保守しました。

1. GPS受信機の特性って?

1.1 移動モード (歩行/自転車/車)とスムージング処理

GPS受信機によっては、その搭載を想定している応用先によって移動モードと云う物が有ります。 例えば、歩行モード・自転車モード・車モードの3つです。 中にはソフトウェアで切り替える機能を持つ物も有りますが、安い受信機だとこの調整機能は殆どないと思って下さい。 このモードの違いは、基本的にはスムージングの調整と速度マスクに影響します。

例えば、このモードによって図1.1の様にスムージングの強さが変わります。 歩行者であればふらついて歩くこともあるので、受信機から出力される結果は生の計算結果に近い物になります。 一方、車で有ればそんなふらつく訳が有りませんので生データの移動平均や予測(ジャイロや加速度センサも有るけど)を採り入れて出力されます。 図1.2へフィルタ設定の違いによる影響を確認した実測データを示します。 許容される加速度の違いにより、測位解に大きな差が生じていることが分かります。

測位のモードとその処理方法の特徴
図1.1 GPS受信機の測位モード(歩行者/自転車/車)

測位のモードの違いの実測データ
図1.2 u-blox 6Tで計測した測位モードの違い(Stationary/Portable), 単独測位

加えて、受信機によってはある程度の速度で移動するか、静止地点から一定距離離れるなどしない限り位置を更新してくれなかったり,妙に測位点が飛んだり,細かい変化が全く分からないなど個性が有ります。 これらを考慮に入れた上でGPS受信機は組み込まないと痛い目にあいます。 ただ位置が分かればよいと言っても、間欠動作するのか,移動中の位置精度はどうか,静止中の処理は・・・など応用例により様々ですので、それぞれに合わせて使う必要が有ります。

ここで言う移動モードの調整が可能な受信機と不可能な受信機の一覧を以下に示します。

設定可能な受信機 ubloxシリーズ
設定が不可能な受信機

1.2 受信感度

GPS受信機の感度とは、どれだけ低い受信強度でコードを追跡できるかと云う事を指します。 2006年頃から高感度型GPS受信機と云うものが出てきたように思います。 基本的には、積分時間を延ばすことで感度を伸ばすという事をやっているようです。 その他、マルチパスだろうが何だろうが受信するという手段も採られています。 従って、受信機によっては結構測位点がバラついたりして信頼できないことがしばしばあります。

森林中で使う予定が有るのなら、迷わず高感度型を選びましょう。 ただし、測位精度には受信機の個性が非常に有りますので選定には注意が必要です。

1.3 初期位置算出時間(TTFF: Time To First Fix)の短さ

TTFFとはGPS受信機の電源を入れてから位置情報が出力されるまでの時間を指します。 最近の高感度GPS受信機で有れば大抵はTTFFが短くなって来ています。 TTFF短縮技術もいくつかあり、それぞれ特徴が有ります。 以前の低感度GPS受信機であれば、TTFFを短縮するためにはアルマナックやエフェメリスが分かっていることが重要でした。 これはドップラシフト量や可視衛星を判断して数少ない相関器を効率よく利用するのに必要なためです。 現在では100近い相関器を持つものもあり、瞬間的にドップラ周波数・疑似距離に対する全域検査を掛けて瞬時に相関値を割り出すのが普通です。 さらに、一部の受信機では放送メッセージ内容の予測も行う事で相関値を高め、同期を早く取ることが出来る様です。 と云う訳で、最近の受信機はたいてい電源を入れてから3秒以内のホットスタートを誇示するものが多くなっています。 が、TTFFにもメーカーの考え方による個性があり、受信環境が悪かったり古いアルマナックしか持っていなかったりすると完全に航法メッセージを取り直すこともあり、一概に言えません。

1.4 マルチバス抑制

マルチバスとは、建物の壁面や路面などで反射した電波のことを指します。 このマルチバス波は反射波ですからその分本来の直線距離より長い距離を飛んできたことになります。 そのため、もし信用して計算すると測位誤差が増えてしまいます。 測量用の受信機ではこのマルチバスを抑制する技術が多数取り入れられており、より正確な測位を行う工夫がなされています。

1.5 搬送位相情報出力の有無

これはGPSの測距信号を乗せる搬送波を追跡し、この位相情報を出力する機能です。 RTKをやるなら必要な機能ですが、比較的特殊用途に限られます。 私としては近い内に試したい機能ではありますが、まだ取り扱ったことが有りません。

1.6 その他、注意が必要な点

ハードウェア的に留意が必要な点についてまとめてみました。 先ず、バックアップ電源の用意が必要かどうか,電源電圧は何ボルトか,消費電流の最大はいくらか, 消費電流の変動はどの程度か(ノイズ・リプル対策),電源に乗っても良いリプルと受信感度の関係は?, 出力信号のレベルはTTL(High:Vcc, Low:0V) Or RS232C(High:+10~15V, Low:-10~-15V)か, 1PPS信号は必要か,アンテナの近くに***が有っても大丈夫か?(実際に組み立てないと不明), 外部アンテナは必要か?等です。 これらはそれぞれがバッテリの種類やコンデンサの容量,レギュレータの出力電圧,レベル変換ICの必要性,時刻同期が必要か,どうかなどと関係しています。


☆GPS-15受信機

写真 GPS15L
製品名 GPS15L or GPS15H
製造 GARMIN/ガーミン メーカーサイト
分類 低感度GPS受信機 (L1 C/A)
データシート ダウンロードによって入手可能
販売代理店 I.D.A. Online
注意:2009/12/2現在、GARMIN社は年内にGPS15シリーズを生産中止とし、 高感度タイプのGPSx15へ移行する予定です。
価格 アクティブアンテナ付きで、15,300円
電源電圧 GPS15L 3.3V~5.4V, GPS15H 8.4V~12V (I/OはTTL)
消費電流 75-100mA
WAAS対応
内蔵チャンネル 12ch
受信感度 捕捉時:,追跡(tracking)時:
測位情報出力形態 NMEA0183 version 2.0,信号はRS232Cレベル(±10V位)
更新レート 1Hz
バックアップ電源 充電池を内蔵しており、外部回路は不必要
初期位置算出時間(TTFF) ホットスタート:15sec
ウォームスタート:45sec
コールドスタート:5min・・・下手をすると10分以上です。

注意:I.D.AのサイトではTTFFの定義が間違っています。
原文をチェックしたら、誤訳ではありませんでした。
ですが一般的な定義[1]とは異なります。
それに、GARMIN社のGPS 15xのデータシートでは一般的な定義になっていました。
制御プログラム GPS受信機の出力するセンテンスをコントロールするプログラムです。 ここ
メモ:タブサイズは4で閲覧して下さい。

使用時の感想

素直で良い受信機です。 が、速度ベクトルは2秒前のものですし、測位データは1秒前のデータなのでその辺をカバーする航法センサーが必要です。 方位はかなり正確に出している気がします。 私はこれでGPSロボットカーを制御しています。


★EB85受信機

写真 eb85a
製品名 EB85-A
製造 San Jose Navigation Inc. メーカーサイト
分類 高感度GPS受信機 (L1 C/A)
データシート ダウンロードによって入手可能
販売代理店 ストロベリーリナックス
注意:アンテナ一体型です。
価格 12,600円
電源電圧 3V~5V
消費電流 60mA
WAAS対応
内蔵チャンネル 32ch
受信感度 捕捉時:,追跡(tracking)時:-158dbm
測位情報出力形態 NMEA0183,信号はTTLレベル
更新レート max,5Hz
初期位置算出時間(TTFF) ホットスタート:1sec
ウォームスタート:35sec
コールドスタート:41sec

使用時の感想

速度マスクが厳しく、ロボットが動いたくらいでは速度ベクトル情報を出力しません。 また、高感度ではありますが測位位置がばらついて見えないようにするマスクが厳しく、急激な反転や右折や左折に追随できません。 ローバー型のロボットの制御には使用し難いでしょう。 ヘリ以外のラジコン飛行機ならOKかもしれません。


☆GPS-72受信機

写真 GPS-72D受信機の写真
自作の基板に実装中
製品名 GPS-72D or GPS-74A (GPS-72シリーズ)
製造 ポジション メーカーサイト
分類 高感度GPS受信機 (L1 C/A)
データシート 購入を前提に、販売代理店に頼むと非常に時間がかかるがもらえる。
GPS-72Dの方が安いんですが、GPS-74Aの方が小さくて性能は同じです。
販売代理店 色々なところが有りますが、私は 新光商事 さんを利用しています。
メモ:。
価格 100個まで、GPS-72D:10,000円,GPS-74A:14,000円@新光商事
電源電圧 2.9V~3.6V (I/OはTTL)
リプルが少しでもあると直ぐに性能が悪化しますw
消費電流 25-40mA
WAAS対応
内蔵チャンネル 12ch
受信感度 捕捉時:-140dBm,追跡(tracking)時:-155dBm
測位情報出力形態 NMEA0183 version ?,信号はTTLレベル(0-VCC)
更新レート 1Hz
初期位置算出時間(TTFF) オープンスカイ環境
ホットスタート:sec
ウォームスタート:sec
コールドスタート:
きちんとは測っていませんが、ubloxより遅い感じですがそれでも速い方だと思います。

森の中では…感度が平均で5dBHzほど感度が落ちます。それに伴いTTFFも長めになります。
ホットスタート:10sec以内
ウォームスタート:もっとも良いタイミングで電源を入れると平均62sec
コールドスタート:3分あれば大体OK

制御プログラム GPS受信機の出力するセンテンスをコントロールするプログラムです。 ここ
メモ:タブサイズは4で閲覧して下さい。
参考文献(リンク) GPS-72の兄貴分(何故かまだ販売中)の受信機について試験された方がいます。
GPS-54受信機の評価

使用時の感想

受信感度は結構高いです。それでいて、アンテナ一体型だし電流は40mA以下しか食わないので気に入っています。 ただ、速いボーレートで通信しているときに入力したコマンドがしばしばリジェクトされるのが玉にキズです。 あ、そう云えばデフォルトの測地系がTokyo Mean Solutionとなっていますので使用する前に測地系を変更するコマンドを送ってやる必要があります。 今時WGS-84以外の測地系なんて何に使うんですかね?

[2010/10/9追記]ボーレート9600bps設定にすると、出力されるセンテンスが時折狂います。 たぶん、搭載されているファームウェアにバグが有ったのでしょう。

日本メーカーということで、将来的な準天頂衛星への対応を期待しています。


★A100受信機

写真 A100受信機の写真
三脚の上で測量中
製品名 A100スマートアンテナ
製造 ヘミスフェア(Hemisphere) メーカーサイト
分類 高感度GPS受信機 (L1 C/A)
データシート ダウンロード可能:リンク
販売代理店 様々な代理店があります。
例えば、GPSDGPSさんです。
価格 23万円程度
電源電圧 7.0V~36V
消費電流 公称値 150mA @12V
WAAS対応
WAASの捕捉は割と早いです。
内蔵チャンネル 12ch
受信感度 捕捉時:-140dBm,追跡(tracking)時:-155dBm
測位情報出力形態 NMEA0183 version ?,インターフェイスはRS232C
更新レート 最大20Hz
初期位置算出時間(TTFF) 非計測です。
制御プログラム 制御ソフトウェアはここよりダウンロード可能です。
参考文献(リンク) 特になし。

使用時の感想

A100はu-blox5Tよりも高い受信感度を持っています。 また、マルチパスに対する抑制が強いためか測位誤差は少なめです。 オープンスカイなら、2時間の測位で誤差60cm程度となります。 樹木等により遮蔽されるとマルチパスが発生するため測位できなくなることが多い様です。 そのため設計時に想定されている使用環境はオープンスカイと言えるでしょう。 その測位性能や通信ケーブルの仕様上の問題により、移動ロボットには適用し難いと思います。


参考文献

  1. 精説GPS改訂第2版,測位航法学会訳,pp.414-415,2010.4.
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