GPSによる測位の実現方法

~(私がよく知らない)精密測位以外~

森下功啓製作所 ONLINE

[注意]この文章は書きかけであり、中には不確実な内容も含まれています。 誤りがございましたらお知らせ頂けると幸いです。
[最終更新]2013/10:図を追加しました。

1. 測位の基本原理

GPSの測位原理(単独測位)
図1 GPSの測位原理(単独測位)

GPSの基本的な測位原理は、位置の分かっている4つの衛星と受信機間の距離(これを擬似距離と呼ぶ)を測定し、4つの連立方程式から位置と受信機時計誤差のx,y,z,Δtを求めることにあります。

衛星の位置は刻一刻と変わるため、受信機は計算しようとしているある瞬間(これをエポックと云う)において受信される電波が発射された位置を計算しなくてはなりません。   GPSの測距信号は約20,000~260,00kmも宇宙空間を旅します。   その間に約60~90msが経過するため秒速3.8km程度で移動する衛星は200m以上も移動するし、地球だって自転で受信機の位置もずれてしまいます。   GPS受信機内部ではこれを考慮した計算が行われています。   ところで、GPS受信機が測位を始めた頃は時計の誤差が不明なので衛星の位置が不明なはずです。   これについては、別に章を設けて考察したいと思います。   何はともあれ、衛星の位置計算には衛星の軌道暦(リアルタイム測位ならば放送暦)が必要です。   この軌道情報をどうするか、計算を受信機がするのか、それともサーバがするのか、後処理なのか、リアルタイムなのかによって提供されるサービス内容が異なります。

2. 測位方法の種類…単独測位など

原理に関する詳細はここでは割愛します。 単独測位とは、一般的には補助システムがない測位方法を指します(のはず)。 また、この単語は基地局からの補正情報等が必要なDGPSやRTKと対比して使われます。 ちなみに、日本付近ではMSASによる広域DGPSサービスが提供されており、安い受信機でも受信して電離層の補正を掛けることが出来るようになっています。 他には、ちょっとお金を出してアンテナ等を買えば海上保安庁が管轄するビーコン信号を利用するDGPSが実現できます。

3. 携帯電話で提供されるアシストGPS(A-GPS: Assisted GPS)測位サービス

[GNSS系の学会で聞いてきたうろ覚え&勝手に解釈的内容なので、一部間違っているかもしれません。]

携帯電話における測位は、そのほとんどがハードウェア的にはスタンドアローンによる単独測位も可能なシステムとなっていますが、基本的には携帯電話の通信回線を利用したサーバ側の支援を必要とします。 2009年11月現在、NTTドコモではサーバ側と通信のできない端末は測位を行わないよう設定されているそうです1。 これは位置情報を利用した情報提供サービスとしてのビジネスを考え、単に緯度経度を知りたいというコアな客層については目を瞑った為ではないでしょうか。 または技術的な問題(特に素子サイズに関する)が厳しいためかもしれません。 携帯電話におけるA-GPSサービスでは以下の3通りのやり方が行われています。

1つ目は、携帯電話の通信網を使って測位に必要なエフェメリスを携帯電話にダウンロードし、これをGPS受信モジュール若しくはワンチップMCUへ保持させるサービスです。 もしMCUに放送暦を記憶させる方法なら、MCUはGPSチップセットから各衛星までの疑似距離を取得して測位演算を行います。 この手法のメリットは、高速の通信網を使って必要となる航法メッセージを送信することによりGPS衛星の放送を一々30秒も待たなくて良いということです。 携帯電話利用者の位置は大まかに分かっているので必要な衛星の分だけ放送暦を送信するのは簡単です。 おまけに、3時間以内であればサーバと通信を行わなくとも素早い測位が可能です。

2つ目は、携帯電話に内蔵されたGPSチップから取得した生データをサーバに送信し、放送暦を保持したサーバ側で測位計算を行った後にその結果を返すサービスです。 ここで、生データとはアンテナの出力を(ダウンコンバートするかしないかに依らず)A/D変換によって得られたものを指します。 サーバの保持する放送暦は、どこか別のサーバに接続されたGPS受信機より得ていると考えられます。 この方式のメリットは高速な通信網さえあれば瞬時に(数秒はかかるだろうが)測位解を得られることにあります。 さらに、携帯電話側のプログラムやハードが単純で済むため設計やメンテナンスをやり易いというメリットもあります。 ただし、A/D変換した生データは200kByte程にもなるのでちょっとした画像のやり取り程度の負荷がネットワークに掛かることとなります。 ところで、GPSの測距信号のA/D変換値はほぼノイズ的であるため圧縮処理もほとんど効果がありません。

3つ目は、内蔵したGPSチップセット若しくはMCUが擬似距離まで測定し、その結果をサーバに送信するやり方です。 サーバ側では受信した擬似距離を使って測位計算を行い、その結果を返します。 従ってネットワークにかける負担は少なくて済むし、恐らく測位解が得られるまでの時間もかなり短縮されると考えられます。 ただし、PRNコードの生成を内部でやっているため新しいコードが出現した場合にはMCUのファームウェア書き換え(アップデート)での対応となります。 例えば、日本が打ち上げた準天頂衛星(QZS)への対応がそれです。

日本では、米国が先駆けた緊急通報位置通知と同じ趣旨の法令が2007年より施行されています。 これにより緊急通報時に通報者の位置を関係消防・警察へ通報する義務が通信事業者へ科せられることとなりました。 上記の手法の内、緊急時にどの手法が測位の確実性が高いかと言えば明らかに1つ目の測位方法であり、これからはスタンドアローン測位が可能なサービスが広まる事が望まれます。


1 auでは、基地局との通信が途絶えた場合に、災害時モードとして携帯電話単独での測位機能をサポートしているそうです。 山域の地図は表示されないらしいので、登山には使えません。

参考文献
[1]GPS/GNSSシンポジウム2011テキスト(シンポジウム参加者の分しか刷らないとのことでしたので参加者の方に見せてもらう他ありません。)

4. カメラ向け測位サービス

最近では撮影した写真に位置情報を付加する高機能カメラが販売されるようになって来ています。 ちょっと前までは、カメラに内蔵されたスタンドアローンの受信機が出力した位置情報をそのまま添付していました。 ところが最近では省電力性が問われるようになり、GPSフロントエンドが出力するA/D変換値をそのまま記録するサービスが展開されるようになって来ています。 これは携帯電話における測位方法その2と同じ様な手法です。 後から回収した生データをメーカーの用意するサーバーに送信して測位計算を行います。 カメラの電子時計は携帯電話の様に基地局と同期しているわけでもありませんので測位アルゴリズムは少しばかり面倒と予想されます。

私はコンパクトカメラの筐体はメタリックが好きなのですが、そういうカメラではGPSによる測位は難しいでしょう。 残念!2


2 私の指導教員が使用しているカメラには電子コンパスと単独測位が可能なGPS受信機が入っていました。 PCに接続した際にアシスト情報を自動ダウンロードするタイプです。 そのアシスト情報は1か月(長い!)も有効だそうです。 筺体の見た目はメタリックに仕上げてあって、どうやって電波を受信しているのか不思議です。 電子コンパスにしたって、他の電子機器の近くで良く方位が出せるものです。 技術者の努力に脱帽。

5. GPSの弱点と対策

GPSの弱点とは、衛星の電波の届かない空間では測位できないことです。 例えば、地下駐車場や建物の中や地下鉄の構内などです。 もちろん、水面下もだめです。 従って、潜水艦は潜水中に慣性航法装置と呼ばれるジャイロ・加速度等のセンサを組み合わせた装置によって位置を推定しています。 現状ではビルの谷間も測位できるか怪しいのですが、ロシアのグロナスや日本の準天頂衛星によって克服されつつあります。

もう書いてしまいましたが、電波の届く範囲を広げるために日本では準天頂衛星(QZS)を打ち上げました。 これにより、数年の内に東京のビル街においても測位できるようになる見込みです。 ただし、2011/10現在ではQZSは1基しか飛んでいないため、一日の内で利用時間が限られてしまいます。 今後の追加配備が待たれます。

では屋内の方の対策はというと、IMES(あいめす)という放送システムが提案されています。 IMESでは室内に設置されたアンテナから位置情報を含んだ信号を放送します。 受信機がその位置情報を受信することによって、ユーザーは室内でも大よその位置が分かるという仕組みです。 実験では上手く行っているらしく、後は普及が待たれるところです。 ただし、普及には国の後押しが必要と思われます。

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